デザインって、国の文化そのものだと思う。
どんな言葉で、どんな形で、何を伝えるか。 そこには、その土地の人たちの“ものの見方”が表れている。
フランスに暮らして6年。
日本とフランスどちらの現場でもデザインをしてきて、改めて感じる。 デザインの根っこがまるで違う。
その違いは、3つの軸で見えてくる。少し解説をしていこう。
1. 情報量の違い ― 「汲み取ってね」という文化
フランスのデザインって、本当に情報が少ない。
日本では「ここも親切に伝えなきゃ」と思うけれど、
フランスでは“必要最低限で十分”という潔さがある。
たとえばイベントのフライヤー。
日本なら店名、住所、電話番号、地図まできっちり載せる。
でもフランスでは「店の名前があれば分かるでしょ?」で終わり。
地図なんてまず載っていない。
最初は「これで伝わるの?」と不安だったけれど、
それがフランスの“信頼”の形なんだと気づいた。
相手を信じて、汲み取る余地を残す。
デザインの余白に、そんな自由さが息づいている。

恐らく何かのアートイベントだとわかるけど、25/26は年を示しているのか、日付なのかさえわからない。告知ポスター。
2. エコの意識 ― デザインも電力を使う
もうひとつ印象的なのは、エコへの意識。
フランスではスーパーでも野菜は量り売り、
包装も最低限、ラップを使うこともほとんどない。
そんな日常の中で、デザインも“省エネルギー”が求められる。
以前、フランスのAI研究施設のWebサイトを制作したときのこと。こちらが私が制作したウェブサイト。
更新を担当するのはパソコンに詳しくない秘書さんだと聞いて、「操作しやすいように」と思って設計した。
でも、後から言われたひとことにハッとした。
「このサイト、電力を使いすぎててエコじゃない。」
その瞬間、“デザインもまたエネルギーを消費している”という事実に気づいた。
そこでよく聞くようになった言葉が「Low-tech」。
ハイテクを支える膨大な電力をどう減らすか。
地球への負担をどう軽くするか。
そんな視点が、フランスのデザインには根付いている。
便利さの先にある“自分たちが暮らす地球”を守るという感覚だと思う。
3. 美意識の違い ― “好き”を大切にするフランス人
フランスを歩いていると、
「このマダム、おしゃれやな」って思うことがよくある。
特別な服でもないのに、なんだか“こなれている”。
それはきっと、自分の“好き”を知っているからだ。
「これが私には心地いい」
「この感じが好き」
そういう小さな自覚が積み重なって、
あの自然な美しさになっている気がする。
だから、フランス人に向けてデザインをするときは、
毎回ちょっと緊張する。
みんな、自分の中の“美”をちゃんと持っているから。
一つひとつの表現に、感覚的な反応が返ってくる。
それが難しくもあり、楽しくもある。
フランスと日本でのデザインの仕事を通して、感じた違いはこんな具合である。
日仏のあいだで育つ、私のデザイン
フランスに住むことで、日本人が思う“フランスらしさ”も、フランス人が思う“日本らしさ”も、
どちらもよく分かるようになった。
昔は「日本=アニメやサムライ」だった印象が、今は「ハイクオリティで洗練された国」へと変わってきている。
一方で、日本では「フランス=上品でエレガント」。同じ文化でも、見る角度によって全く違う形になる。
たとえば日本で見た「ブルトンヌ」というケーキ屋さん。
こちらがフランスの“ブルトン”。少しワイルドで白黒の世界観。

日本では柔らかく、可愛らしいトーンに変わっていた。
文化が違えば、デザインの“翻訳”も変わる。
その違いが、面白くてたまらない。
フランスのラフさと、日本の丁寧さ。
そのあいだにある“余白”こそ、
今の私のデザインを育てている場所なのかもしれない。
